ふたつのさくら

客間には、お母さまと、あと多分朔羅がいる。

毎回のことだ。

渡貫と徒野の間での取り決めみたいなもの。

舞ったあとにすぐ朔羅の顔を見れるから、これも頑張ろうって思えるんだよなー。

そんなことを考えているうちに、客間へと着いた。

「当主さま、咲良です。」

襖の前に立って、中に向かって声をかける。

返事はすぐにあった。

「どうぞ。」

静かな声で言われたのを確認して、襖を開けて中に入る。

中にはすでにお母さまと、もう1人、男の子の姿があった。

朔羅じゃない。

見たことはあるけど、誰だっけ?

少しの疑問を持ちながらもお母さまの隣に座る。

それを見ると、男の子は丁寧に頭を下げて話し出した。

「徒野家当主代理、徒野凍夜と申します。」

あ、凍夜くんか。

しばらく見ない間に大きくなっていて、誰かわからなかった。

……なんか近所のおばさんみたい。

やだやだ!私、まだそんなに老けてないもん!

でも代理って……朔羅、風邪でも引いたのかな?

凍夜くんは話を続ける。

「先程は美しい舞を見させていただき、ありがとうございます。今後とも、結界の回復にご尽力賜るよう、お願い申し上げます。」

いつも、朔羅が言うようなことを言い終わって、凍夜くんは顔を上げた。

それと同時に、こちらも頭を下げて、お母さまが口を開いた。

「こちらこそ、いつも私たちの平穏な生活を守ってくださりありがとうございます。あなた方の益々のご活躍を期待しております。」

言い終わったのを確認して顔を上げる。

そしてお母さまが凍夜くんに聞いた。

「朔羅くんは、風邪かしら?」

当主としてではなく、母親としての声だった。

私も気になっていたから、聞きたい。

「いや、あ、えと……はい。」

凍夜くんは視界をぐるっと一周させながら、歯切れ悪く答えた。

絶対風邪じゃない。

その程度の嘘くらいは、私にだってわかる。