ふたつのさくら

凍夜は僕に言われるとハッとして手を後ろに隠した。

もう遅いっての。

僕は凍夜の前に膝をつき、腕を引っ張った。

でも後ろで両手を握っているのか、全然出てこない。

「凍夜、見せて。」

「……やだ。」

頑固者。

「はぁ……手当は?ちゃんとした?」

手を離しながら聞く。

凍夜は目も合わせないで、口も硬く閉じていた。

絶対に答えないという意志を感じる。

うーん、多分してないな、これは。

「……あのねぇ凍夜。そういうことはしないで。本当に、危ないから。」

もう何回も言った。

「下手したら僕がお前を刺してたかもしれないんだよ?」

今回は大丈夫だった。

それのどこに、次も大丈夫だって保証がある?

いつだって、どこだって、僕が誰かを襲わない保証なんてないんだよ。

そこんとこ分かってくれないかな?

「刃物を持ち出したときは絶対にダメ。近づかないで。」

分かっていても来るんだろう。

こんなに弱い兄貴でも、凍夜にとってはたった1人の兄で、師匠みたいなものだから。

そして僕は、凍夜が1番嫌なこと、禁句を言ってしまった。

「どうせ1回切れば正気に戻るんだから。危ないことしないで。」

「っ……!」

凍夜の目が大きく見開いたとき、それに気付いた。

「あ、ごめん……。」

すぐに謝るけど、凍夜は目にいっぱいの涙を溜めていた。

「兄さん、もっと自分のこと大事にして。」

「ごめん……。」

謝ってはいるけど、多分僕はまた言ってしまう。

自分よりも、周りの方が大事だから。

周りの人間を傷つけるくらいなら、自分を傷つけた方がいいって、思ってしまうから。

それが凍夜は気に入らないんだろうな。

「……でも凍夜、本当に、怪我するようなことはしないで。自分を大事に思ってないわけじゃないけど、優先順位が凍夜の方が上だってだけだから。」

凍夜は返事をしなかった。

見つけたらまたやるんだろう。

僕と同じ。

僕は優先順位が凍夜の方が上だけど、凍夜は僕の方が上だから。