ふたつのさくら

……その後、咲良さんはまた部屋の外に出され、中には僕と父、そして渡貫当主の3人になった。

旦那さまは咲良さんの遊び相手として連れ出されていた。

「……朔羅くん、さっきのこと、心配……よね?」

さっきのこと、とは、おそらく僕が咲良さんを殺す可能性がある、ということだろう。

「……はい。」

素直に頷いた。

どれだけ我慢しても、死ぬほど努力しても、崩れ去るときは一瞬だ。

抗う時間もないまま、乗っ取られて、咲良さんを噛み殺すだろう。

「……じゃあ、もうどうしようもなくなったとき。全神経を使って耐えたけど、それでも我慢できない、あと1秒でも咲良といたら、咲良が危ないってとき。そのとき、教えてちょうだい。」

渡貫当主は優しく言った。

「え……?渡貫さま、それって……」

「えぇ。手遅れよ。だから、そうならないように、頑張ってちょうだい。」

渡貫当主が言っているのはこうだ。

僕が咲良さんを傷つけたら、即婚約は破棄。

もし、殺したら、自分も一緒に死になさい。

そして、限界が来るまでは、死ぬ気で咲良を守りなさい。

あなたは、咲良と、幸せになりなさい、幸せにしなさい。

たったの8歳の子供に、これだけのことを言ってきたのだ。

この親あっての、あの子か……。

惚れた相手が悪かった。

僕に残された返事は、ひとつだけだ。

「……畏まりました。」