ふたつのさくら

すると、静かな部屋に、場違いな明るい声が響いた。

「朔羅、何してるの?」

顔を挙げると、咲良さんが襖を開けて、そこに立っていた。

「あ、えっと……」

どうやって答えようかと言葉に詰まっていると、咲良さんはズンズンと部屋に入ってきて、僕の目の前に座った。

「朔羅、泣いてる?」

悲しそうな顔で言った。

「へ?いや、泣いてないですけど……。」

僕はそう答えたが、咲良さんは聞いていないようで、渡貫当主に向き直り、声を上げた。

「母さま!朔羅泣かせちゃダメ!」

そう言われて、渡貫当主も我に返ったのか、咲良さんを嗜めた。

「咲良、朔羅くんは泣いてないし、泣かせてもないよ。それと、今大事な……」

「母さまじゃないなら父さまね!」

全く聞く耳を持たず、渡貫当主の話を遮って、今度は旦那さまに詰め寄った。

「朔羅泣かせたなら、もう嫌いになるから!」

「……俺、違うのに、嫌われた……」

「嫌い」の一言に、旦那さまは崩れ落ちていた。

「咲良さん、僕は泣いてないですって。」

咲良さんを止めるために立ちあがろうとすると、袴に足を引っ掛けて、ズデッと転んでしまった。

顔面からぶつけた……。

「朔羅?!」

咲良さんは畳に突っ込んだ僕を見て駆け寄ってきた。

「朔羅、大丈夫?」

僕はその手をしっかりと掴んで、仰向けになりながら引き寄せる。

「……捕まえた。」

咲良さんはバランスを崩して、僕の上に重なるようにして倒れた。

僕は彼女を抱き止め回転し、咲良さんの顔の横に手をついて静かに聞いた。

「……咲良さん、僕じゃなきゃダメなんですか?」