ふたつのさくら

……父があんな質問をしてきた意図は分かった。

僕に候補から降りて欲しいんだ。

父から直接それを言うのは体裁が悪いから、僕に言わせたい。

僕のためを思って言ってくれているのはわかるから、降りたとしても高校卒業までは育ててくれるだろう。

そんなに冷たい親じゃないことはよく知ってる。

でもわからないことがあった。

「……あの、なんでそれを渡貫さまの前で言うのですか?」

これはうちの、徒野の問題。

言い方は悪いけど、この話に渡貫は関係ない。

部外者だ。

それをわざわざ渡貫の当主たちの前で話したことには、何か理由があるはずだ。

その問いに答えたのは、父ではなく渡貫の当主だった。

「それはね、理由づけのためよ。」

「理由づけ?」

聞き返した僕に、渡貫当主は微笑んで答えた。

「えぇ。あなたには力がある。確かに危険なものだけど、徒野を背負って立つのに十分……いえ、十分過ぎるほどの力が。だから『一身上の都合で』当主にならないなんて、納得できないのよ。」

僕の存在は分家のほとんどの人が知っている。

もちろん、力を持つことも。

だけど、それが身を滅ぼすほどのもので、苦痛に満ちたものだとは、あまり知られていない。

本家以外だと、菖蒲の化野家が知ってるくらいだ。

今までもそうだったし、僕個人としてはこれからも隠していくつもりだ。

「……それは、そうでしょうけど……。」

それでも渡貫に話すことには繋がらないと思う。

「だからね、うちの子にならない?」

「はい?」

笑顔で言われた言葉に、思わず聞き返してしまった。

渡貫当主は混乱する僕を無視して話を続けた。

「咲良と婚約して、渡貫に婿入りするのよ!そうすれば騒ぎ立てる奴らを一掃できるわ!」

テンション高く話されて、僕は状況を理解した。

事情を話すつもりのない僕には、当主をやらない理由がない。

だけど渡貫に婿入りして、渡貫の人間になったら、徒野の当主になる必要はないし、ならない理由としても十分だ。

過去にも何度か、徒野と渡貫の婚姻はなされているから、反対する理由もない。

この上なく合理的、そして現実的な手段だ。