ふたつのさくら

渡貫の当主に連れられて、最初に挨拶をした部屋まで戻ってくる。

僕は父の隣に座った。

「朔羅。」

「はい。」

父が沈んだ声で話し出した。

「朔羅は、徒野の家を継ぎたいか?」

一瞬、質問の意味がわからなかった。

継ぎたいも何も、僕は長男だから、いずれこの家を背負って立つようになるんだろうって思っていたから。

「……どういう意味ですか?」

だから質問の意図を聞こうと思った。

父は、やっぱり沈んだ声で話した。

「徒野の家を継ぐということは、妖怪の力を使うということだ。」

言いながら、父は一度瞬きをして、その目を僕に向けた。

紅い目だった。

もう一度瞬きをしたときには、もう元の黒い目に戻っていたけど。

「俺たちは妖怪を祓うときに、一時的に妖怪になる。そのときだけ、妖怪の魂をあちらの世界に送る力を持てるのだ。」

つまり、生身で戦って勝ったとしても、妖怪の魂はこちらに残り、また悪さをする可能性があると。

「俺はお前ほど侵蝕されていないから、このまま使い続けても問題はないだろう。でもお前はそうじゃない。」

父は、ぽん、と僕の頭に手を置いた。

「朔羅の場合は、力を使うと妖怪から戻りにくい。ただでさえ強い力が、さらに増幅されるんだ。きっと苦しい日が増えるし、寝込む日も多くなるだろう。最悪、人に戻れなくなるかもしれない。」

「え……?」

怖くなった。

人に戻れないということは、外に出られないということだ。

外には出られないし、なんなら無理矢理抑え込もうとして苦しくて辛い日が続くし、理性を保つために自分の身を傷つける、ということだ。

「当主になれば、当然祓屋の仕事をしなければならない。そうなれば、その危険性が増すんだ。逆に当主にならなければ、妖怪の力を使うこともないから、次第に妖怪の力も弱まって、今感じている辛さもなくなるかもしれない。」

父は淡々と、ゆっくりと言った。

かもしれない、なんて希望に縋りたくなった。

せっかく最近はキツいことが少なくなってきたのに、もう一度体験するなんて、絶対に嫌だ。

「次代なら凍夜に任せればいい。俺たちは、ただ朔羅に苦しんでほしくないだけだから。」