ふたつのさくら

……いつしか、目的が自分の血を見ることになっていた。

意識を引き戻すことじゃなくて、傷をつけることこそが、目的になっていた。

癖になっていたんだ。

苦しくて死にそうな日はもちろん、何ともない比較的安定した日でも、自分に傷をつけた。

それで安心できたから。

逆に言うと、それがないと安心できなかった。

だから先代は、僕から刃物を取り上げた。

そもそも大人のいるところでしか持たせてもらえていなかったけど、それすら許されなくなった。

また、苦しい日々が始まった。

部屋から自傷の原因になるものが消えて、苦しみと辛さの捌け口がわからなくなった。

あの時はもう狂ったと思ったよ。

ほぼ毎日血を吐いて、頭痛で動けなくて、体が熱くて、それで、美味しそうに見えるんだ。

人間が、特に母親が、美味しそうに見えた。

何度か、やめようと思った。

力を抑えるのをやめて、流れに身を任せれば楽になれるだろうなって、思った。

でも、それが非常に危険なことだというのは、6歳になるかならないかの子供にもわかった。

「人間」が美味しそうに見えるのに力を解放したら、そのあとは破滅だけだ。

だから僕の取れる選択肢は、最初から「耐える」の一択だけだった。





そんなある日、僕に変化が訪れた。

言葉で説明するのはちょっと難しいんだけど、ふっと楽になったんだ。

ずっと肩に乗ってた荷物を、誰かが持ってくれた感じ。

その日は1日中今までにないほど調子が良くて、自傷の願望もなくて。

とにかく楽な1日だった。

普通の子供になれたみたいだった。

でも次の日、反動なのかなんなのかわからないけど、苦しかった。

熱くて、痛くて、苦しくて、辛くて……。

死にたくなった。

っていうか死んだ。

冗談じゃなく、本当に呼吸が止まったらしい。

推定形なのは覚えていないから。

まぁ、そんな瞬間を覚えてたら一生モノのトラウマになっていただろうね。

事実、母親にとっては軽いトラウマみたいだ。

息をしなくなった僕だけど、病院には運ばれなかった。

その場で救命処置を受けて、なんとか持ち堪えた。