ふたつのさくら

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渡貫邸を離れて、人通りの少ない路地に入る。

「はぁ、はぁ……」

大して長い距離を走ったわけでもないのに、息が上がっていた。

いや、理由はそれじゃない。

限界だ。

咲良さんの前では必死で平静を装っていた。

ちゃんとできていたか、不安ではある。

だけど、どこか抜けてる咲良さんのことだ、変なことはわかっても、気のせいで済ませるだろう。

塀に手をついてよろよろと歩く。

急に後ろから腕を掴まれた。

倒れそうになったところを引き止められたのだ。

「朔羅、無理しすぎだって。」

菖蒲が僕の腕を掴んで立っていた。

「今日で……一旦、最後だから……。」

そう、最後。

咲良さんとお出かけするのは、もう今日で終わり。

今朝、咲良さんに会ったときにそう決めた。

もう、無理だと思ったから。

今後の僕の状態にもよるけど、多分これから先、1日中咲良さんといれることはもうない。

学校では常に一緒なわけじゃないから、多分耐えられる。

死ぬ気で耐えてやる。

何もおかしなことじゃない。

抑え込んでたものが、抑え込めれてたはずのものが出てきてるだけ。

「菖蒲、やだよ……苦しいよ……もっと、一緒に、いたいのに……咲良さんといると、ダメになる……。」

「……とりあえず、帰ろう。」

菖蒲におぶられて、徒野の家に帰る。

移動中も、帰ってからも、ずっと苦しかった。

何かが暴れ出しそうで、狂ってしまいそうで、それを抑えるのに必死で……。

正直、いつ帰ってきたのかもわからなかった。

気づいたら自分の部屋にいて、気づいたら布団に寝かされていて、気づいたら翌日の朝になっていた。