ふたつのさくら

時刻はすでに午後5時を回ろうとしていた。

これ以上遅くなると、妖怪の活動が活発化して、朔羅が大変になる。

「そうだね。下ろして?」

頼むと朔羅はすぐに下ろしてくれた。

もう大丈夫だ。

自分の足で歩ける。

「あ、」

駅までの道を歩きながら、カバンに入れたネックレスのことを思い出した。

「何かありました?」

「……あとにしよ。」

「え?咲良さん、そういうのよくないですよ?」

朔羅が覗き込むようにして顔を見てきた。

「あとでね。」

家に帰ってから渡そうと思った。

「えー?今教えてくださいよー。気になるじゃないですかー。」

「やーだ!」

駅の階段を駆け上り、ぶつくさ文句を言って歩いている朔羅に上から声をかける。

朔羅を見下ろすってなんか新鮮だ。

「早く来ないと、電車行っちゃうよ?」

「大丈夫ですよ。ちゃんと時間は確認してますから。それよりももっと自分の周囲の確認をしたらどうですか?」

「へ?」

朔羅がそう言った瞬間、後ろから誰かにぶつかられ階段から落ちる。

手すりを掴もうとするけど間に合わなかった。

「っ!」

目を瞑る。

誰かに抱き止められた。

「はい、ナイスキャッチ!」

朔羅が片手で手すりを掴み、もう片方の手で私を抱き寄せていた。

「だから言ったでしょ?」

にこっと笑って、朔羅が言ってくる。

……普通の少年みたいな、無邪気な顔。

いつも、どこか諦めたような、何か悟ったような笑顔しか見てなかったから。

こんな顔も、できたんだね!

「……朔羅、大好き!」

「……いきなりどうしたんですか?」

朔羅の顔は、ほんのりと赤くなっていた。

「別に?言いたくなっただけ。」

「……そうですか。行きますよ。自分で歩いてくださいね。」

照れ隠しをするように、朔羅は私の手を引いて早足で階段を登った。

切符を買って、電車に乗って、駅から歩いて……。

そうしてようやく渡貫の家に帰ってきた。