ふたつのさくら

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咲良さんが頷いたのを確認して、男たちに向き直る。

これで少しは恐怖も和らぐだろう。

さーて、こいつら、どうしようかな。

「あ、相手は1人だ!やるぞ!」

そんなことを言いながら、僕に向かってくる。

「……無理ですよ。」

最初の1人に足をかけ、2人目には鳩尾にパンチを入れた。

そいつは白目を剥きながら後ろにいた3人目と一緒に吹っ飛び、別方向から来ていた4人目のパンチを避ける。

勢い余って、そのまま壁に突っ込んでいった。

アホじゃん。

5人目は見てるだけで何もしてこなかった。

普段通りの僕ならこんなこと絶対にできない。

でも今の僕は少なくとも「普段」でも、「普通」でもない。

見えないけど、僕の瞳は紅くなっているだろう。

妖怪の力を使っているときは、単純な力や動体視力が飛躍的に上がる。

それは後ろに生える尻尾の数が多ければ多いほど強くなる。

今はゼロ。

だけど群れなきゃ行動できない、こんな奴らよりは全然強くなれる。

最近うまく戻れないことがあったから心配だけど、まあ大丈夫だろう。

理性でねじ伏せてやる。

「てめぇ……」

転ばせた奴が起き上がり、殴りかかってきた。

「おっと……危ない。」

それを避けて、後ろから首を軽く叩く。

2人ダウン。

息つく間もなく巻き添えを食らった奴と、壁に突っ込んだ奴が来る。

挟み撃ちのような状況だ。

僕がそれらを屈んで避けると、そいつらはお互いを殴って気絶していた。

ほんとにバカなの?

「……さぁ、残ってるのはあなただけですけど。どうします?タイマン張りますか?」

ファイティングポーズをとって、挑発するように、何もしてこなかった5人目に声をかけた。

咲良さんの手を掴んでた奴だ。

僕、お前だけは許さないよ?

「……バケモノ……。」

いや、2人ほどは自滅なんですけど。

でもそういうことじゃないんだろうね。

「知ってますよ。」

僕はそいつに近づいて、鳩尾を殴った。

そいつは短い呻き声をあげて、その場にうずくまる。

しばらくは動けないだろう。

「今度彼女に手出してみろ。この程度じゃ済まさないからな?」

顎を掴んで無理矢理こっちを向かせて言う。

そいつは怯えきった目で、こくこくと何度も頷いた。

僕は手を離して、そいつの首の裏を叩く。

そいつは何も言うことなく、地面に伸びた。

「ふぅ……。」

あー、頭痛い。

我慢できないほどじゃないけど、痛いものは痛いのだ。

やっぱり辛いな……。

目を閉じ、大きく深呼吸をして、心を落ち着かせる。

何度も何度も、やりすぎなくらいやって、咲良さんの前で片膝を立てて座り、上着をとった。