ふたつのさくら

突然聞こえた声に、男は驚いて後ろを向いた。

「誰だ!」

声の主はゆっくりと歩いて近づいてくる。

「誰って……分かりきってるじゃないですか。」

男たちは彼が通る道を開けるように、傍に避けた。

絶対的強者への畏怖。

逆らったら殺されるような、そんな異様な雰囲気が出ていた。

「困るんですよね。そういうことされると。」

朔羅は笑っていた。

顔は笑っているのに、声は冷たくて、目は男たちを射殺さんばかりに鋭かった。

朔羅って、こんな顔もするんだ……。

朔羅は私の手を掴んでいる男の前まで来て、その手を掴んだ。

「これ、離してもらえます?」

「ぐっ……」

男が私の手を掴む力を強めた。

残った手で咄嗟に朔羅の服を掴む。

そのまま朔羅の背中に隠れるように、体を縮めた。

「……大丈夫ですよ。そのまま、目閉じててください。」

優しく言われた言葉に頷く。

言われた通り、固く目を閉じて、朔羅の服に掴まっていた。

朔羅はさっきよりも低い声で言った。

「手、離せって言ってんだよ。」

「っ……」

その瞬間、手が解放されて、後ろから朔羅に抱きついた。

「おわっ……」

朔羅がよろめいた。

「咲良さん、ちょっとだけ離れてもらえますか?」

朔羅を抱く力を緩めて、少し体を離す。

朔羅は上着を脱いで、それを私に渡してきた。

「それ被って、なにも見ないようにしてください。あと、できれば耳も塞いどいた方がいいですね。」

「うん……」