ふたつのさくら

「まず注意です。元気に見えても、1週間は安静にしてください。妖怪に取り込まれて消費しているのは、気力ではなく霊力です。」

「霊力?」

馴染みのない言葉だろう。

僕らには関係あるが、力を持たない人間にとっては意識的に使うことも感じることもないのだから。

「霊力とは生命力みたいなものだと思ってください。それがなくなると人は死にます。」

学生の僕だったら絶対に言わないけど、今は当主だから。

こういうことは下手に濁すよりも、ズバッと言ったほうがいい。

「普通の生活を送るだけでも少しずつ減っていくものです。つまり人の寿命はその霊力がなくなった時に来る、ということですね。」

先生からの反応はない。

ただ真面目に、僕の話を聞いていた。

「若いうちは回復します。今、彼女に残っている霊力が少なくても、1週間待てば、安心できるくらいには回復するでしょう。」

「分かった。」

ありがたい。

これで彼女はもう安心だろう。

「……それで、今度はお願いなんですけど……。」

これに関しては本当に個人的なお願いだ。

徒野家は全く関係ない。

「……僕が、純粋な人じゃないってこと、誰にも言わないでください。咲良さんにも。」

「分かった。」

即答。

「……あーよかったー!これ言っとかないと先生口軽そうだから心配だったんですよ。」

背もたれに体を預けながら言う。

口ではこう言ってるが、実は大して心配していなかった。

去年担任と生徒として1年過ごしてきて、人の秘密を勝手に喋る人じゃないっていうのは分かってる。

「……徒野。」

冗談混じりの僕とは対照的に、先生の声は真剣だった。

僕も姿勢を正して、その先を聞く。

「辛くないのか?今。」