ふたつのさくら

……しばらくして。

「紅葉さま、入りますよー。」

そんな菖蒲の声が聞こえて、目を開けた。

いつの間にか寝ていたようで、目線だけ動かして時計を見ると、もう8時を回っている。

先代の近くにある小さな机には食器が乗っているから、菖蒲はそれを取りにきたのだろう。

「朔羅……は起きてるな。」

起き上がって、軽く伸びをする。

部屋までなら歩けそうだ。

「うん……。先代、長居して申し訳ありません。部屋に戻ります。」

菖蒲に返事をしてから、先代に挨拶をした。

立ちあがろうとすると、なぜか先代に腕を掴まれて、座らされる。

不思議に思う僕を無視して、先代は食器を持って外に出ようとする菖蒲にも座るように言った。

僕らが座ったのを確認して、先代が口を開いた。

「……朔羅。なんでお前は、俺を頼らないんだ?」

「は?」

なに言ってんのこの人?

なんの脈絡もないし、ちょっと質問の意味がわからないんですけど。

隣にいる菖蒲も同じようで、頭の上にはてなを浮かべていた。

先代は不機嫌そうに続ける。

「なんで俺じゃなくて、菖蒲なんだ?」

???

ますます意味がわからない。

え?なにが?

先代と菖蒲を比べて、菖蒲を取ったってこと?

は?僕そんなことした?

てか、なに、嫉妬?

いい年したおじさんが、19歳の若造に嫉妬??

わけがわからない。

「……あの、紅葉さま、もう少し分かりやすく話していただけると……。」

もう何年も、何回も、言葉の足りない先代に付き合ってきた僕らでも、解読不能だった。

母さんならワンチャンあったか……?