ふたつのさくら

「……そうか。じゃあ俺からひとつだけ。」

また薄く目を開ける。

相変わらずどっか向いていた。

「……大事にされてる自覚を持ちなさい。お前に大事な人がいるように、お前も、誰かの大事な人なんだから。」

「っ……」

そんなの……できるならとっくにやってるよ。

自分でも分かってる。

みんなに、咲良さんに、僕が思ってる以上に大事にされてるって。

そんなの分かってる。

でもどうしても思っちゃうんだ。

心の中では、僕のことなんてめんどくさいと思ってるんだろう、って。

それに、大事にされたら、大事にしないといけなくなるだろ?

もらったらその分だけ、返さないといけなくなるだろ?

僕にはそれが、苦痛なんだよ。

嫌なんだよ。

咲良さんを守らないといけない。

凍夜や先代を喜ばせないといけない。

菖蒲に生かされてるんだから、生きなきゃいけない。

もう、重いよ。

僕には返せない。

同じだけの熱量で、大事にすることもできない。

だから、僕の中でみんなを悪者にして、中途半端に死ぬことの罪悪感を減らそうとしてるんだ。

なのに、そんな簡単に言わないでくれよ……。

心は泣いていた。

涙は出なかった。