ふたつのさくら

「渡貫当主さまからは、咲良さんの判断に委ねるとの返事をいただきました。」

これは意外だったようで、少し目を見開いた。

まあ大体のときは、咲良さんに話を持っていく前に渡貫当主が無かったことにしちゃうからね。

だって「まだ」なにも起きてなかったから。

でもそれが咲良さんに伝わるってことは。

「……朔羅、お前……」

最初にした、約束を覚えているだろうか。

咲良さんを傷つけたら、即婚約破棄。

殺したら一緒に死ぬ。

つまりそういうことだと、先代も気づいたらしい。

「……はい。彼女を泣かせました。直接ではありませんが、怪我もさせています。」

本当のところはわからない。

でも咲良さんって単純だから。

僕の様子がおかしいことに気づいて家を飛び出したけど、迷子になって森に来て、あいつに手を出された。

十中八九、そうだろう。

間接的には僕が怪我をさせたってことで、なにも間違っていない。

「だからこれは、咲良さんに委ねるとは言っていますが、ほぼ決定事項です。」

嫌でも、辛くても、悲しくても、苦しくても、それが事実だ。

やろうと思えば、あの怪我だけでも交渉はできた。

でもあんな嘘をついて傷つけたのは、咲良さんに完全に僕を忘れてもらうため。

いなくなった男のことなんて、覚えてても意味ないし、邪魔なだけだ。

あとはこれが了承されて、僕が他の誰かを殺す前にいなくなれば万事解決。

もう少し、あと少しだけ耐えれば、逃げ出せる。

「……そうか。」

先代は俯き気味に言った。

「疲れただろ。もう部屋に戻りなさい。」

一礼して、部屋を出た。

襖を閉めたところで思いっきり壁に背中をあずける。

そのまま座った。

いや座ってないな。

倒れた。

もう……動けな、

「……無理するなよ。」

「せ、だい……」