ふたつのさくら

……こうして僕は、たったの10歳で徒野当主になった。

それ以来先代とは、事務的な話がほとんどだ。

個人的な話だって、僕からすることはない。

向こうから尋ねてきたことに、一言二言返すだけだ。

誰が、自分のせいで腕失った人を頼れるってんだよ。

先代の部屋の前で深呼吸をする。

壁から手を離して、自分の力だけで立つ。

ふらつくけど、少しの時間ならなんとかなりそうだ。

咲良さんに弱った自分を見せられないように、先代にだって、見せたくない。

襖に手をかけて、中に声をかけた。

「先代、朔羅です。お話よろしいでしょうか。」

思ってるよりも疲れた声をしていた。

ま、菖蒲から報告行ってるだろうし、多少はいいか。

すぐに返事が返ってきた。

「入りなさい。」

襖を開けて中に入る。

すぐに出られるように、襖の目の前に座った。

先代はそれを見て心配そうな顔をしていたが、特に何か言うことはなかった。

先代の目を見ないようにしながら口を開く。

「……さっき、渡貫当主さまに婚約を破棄させてほしいと連絡を入れました。」

先代に驚いた様子はなかった。

そうだろうとも。

みんな僕のとりうる行動なんて手に取るようにわかるんだから。

渡貫当主も驚かなかったくらいだ。

僕の行動原理はいつだって咲良さんのため。

僕は自分こそが彼女にとって1番の害になると考えてる。

そんなの、他の誰もが知ってることだ。

知らなかったのは咲良さんだけ。

咲良さんだけが、なにも知らずに、僕の隣で笑っててくれた。

考えれば考えるほど、最低な男だな、僕は。