ふたつのさくら

……数日後。

僕は起き上がって話ができる程度まで回復した当主に呼び出されていた。

襖の前に立ち、声をかける。

「当主さま、朔羅です。」

少しの間ののち、返事があった。

「……入れ。」

襖を開ける。

中にいる当主は、多少顔色が悪いかな?と思うくらいで、比較的元気そうだった。

無理している様子もない。

だけどその体じゃ……。

僕は布団に入って座っている当主の正面に正座した。

目は合わせない。

当主は躊躇いがちに口を開いた。

「……朔羅、落ち着いて聞いてくれ。」

そう前置きして、僕の予想通りのことを口にした。

「……俺は徒野当主を降りる。こんな体じゃまともに戦えないからな。」

弱小妖怪ならなんとかなるかもしれない。

でも少し強いやつ、ましてや当主にこんな怪我を負わせた狐なんかじゃ、片腕と片足にハンデありで戦えるわけがない。

徒野の当主は、妖怪と戦えないと務まらない。

じゃあ今の当主が降りたら、誰が次の当主になるのか。

まさか空席にしとくわけがあるまい。

「本来なら凍夜に任せるべきなんだろう。でも今、あの子はまだ2歳だ。」

2歳の子供になんて、任せられない。

他に跡取りとなりうる子供は僕だけ。

どれだけ嫌がっても、なれない理由があっても、必然的に、そうなる。

そうせざるを得なくなってしまったのだ。

「……朔羅、どうする?」

「……どうするもなにも……」

全ての感情が消えたような声に、自分でもゾッとした。

「……僕がやるしかないでしょう?」

代理を立てる選択肢はない。

「代理」でも妖怪を祓えないと、当主の座に着くことはできないから。

これは徒野当主の絶対条件だ。

今、この町にいる妖怪を祓える人は、僕と菖蒲の父親だけ。

菖蒲ができるのはせいぜい幻覚を見せるくらいだ。

力が弱すぎるし、それになにより、化野を継ぐことが決まっているから。

菖蒲の父親は、すでに化野家を背負って立っている。

2つの家の当主を同時に務めるなんて、できるわけがない。

最初から、僕に許された返事はひとつしかなかったのだ。