ふたつのさくら

……次に目を開けたとき、僕は父に抱えられていた。

父は片手で僕を抱えて、左足を引き摺るようにして歩いていた。

「……父、さん……」

「……あぁ、朔羅……歩けるか……?」

言いながら、父は僕を降ろす。

まだ森の中にいるようで、地面からはカサカサと、枯れ葉の音がした。

父の様子が見える。

左腰に差してあるはずの刀は、なぜか鞘だけで本体が見つからず。

左足からは夥しい量の血が流れ。

左腕の肘から先は、噛みちぎられたようになくなっていた。

「っ、オ゙ェ……」

さっきの死体がフラッシュバックして、また吐いた。

父が背中をさすってくれる。

生理的な涙を流しながら、胃液を吐き出した。

恐ろしさと気持ち悪さで頭がうまく働かなかったが、これだけは理解できた。

『この怪我の原因は、僕だ。』

もし僕がもっと早く起きていたら。

もし僕が気絶していなければ。

もし僕が、今日ここに来ていなければ。

父はこんな怪我をしなかったかもしれない。

いや、しなかっただろう。

だって父は強いから。

確かにあの狐は強かった。

今の僕でも、もしかしたら腕の一本くらいは持ってかれるかもしれない。

だけど父が敵わない相手じゃなかった。

でもそれはあくまで、父が「1人で」戦ったら、の話だ。

意識のない子供1人を庇いながら戦ったら、余裕はなくなるし、隙もできる。

そんなのを見逃してくれるほど、甘い相手じゃなかった。

だから今、こんな大怪我をして、死にそうな顔をして、そこにいる。

涙が出てきた。

バレないように拭った。

口元も乱暴に拭って、当主に声をかける。

「……帰りましょう。」





このときだ。

このときに僕は、いろいろなことを諦めた。

家と関わらずに生きることも、両親に甘えることも。

……もしかしたら、咲良さんと一生を生きることも。