ふたつのさくら

あと一歩で、どちらかに危険が及ぶ、ってところまで近づいて止まった。

両手で刀を中段に構えて、相手の動きを伺う。

だんだんと頭が痛くなってくる。

まだ大丈夫、我慢できる。

大きな異変を知った体は、それよりも小さな異変なら簡単に無視できるようになっていた。

まだ動かない。

どちらも互いに様子を伺って、膠着状態が続くかに思われたが、そうはならなかった。

先に動いたのは妖怪だった。

後ろ足で地面を蹴って、僕に飛びかかってくる。

僕はそれを足捌きだけで避けて、足を一本切り落とした。

続けてバランスを崩したそいつの心臓をめがけて、刀を突き刺す。

犬はなす術なく刺されて、光の粒となって消え始めた。

完全に消えたのを見届けて、深呼吸をする。

自分を落ち着けるために、もうひとつの自分をしまい込むために。

急に体の力が抜けて、刀を取り落とし、倒れそうになる。

でもそれは父に支えられて、未然に防がれた。

「力を入れすぎだ。」

笑いながら、父に言われた。

「……そんなこと、ないし。」

目を逸らして、答えた。

父はその返答にさらに笑みを深くして、僕を塀に寄りかかるように座らせる。

そして僕が落とした刀を拾って、鞘に納めてくれた。

「……落ち着いたら帰ろうか。」

「うん……。」

すでに僕は、この程度で動けなくなる弱い自分が大嫌いだった。