ふたつのさくら

だんだんと夜の闇も深くなり、僕は疲れを感じ始めていた。

考えれば、当たり前なのかもしれない。

たった10歳の子供に、夜中の2時3時まで起きてろって、それも歩き回って起きてろっていうのは、無理な話だ。

父の手を握って、寝そうになりながら隣を歩いていた。

そんな僕を見て、父は声をかけてくる。

「朔羅、やってみるか?」

「……?」

やってみるって、何を?

何をって、今やることなんてひとつしかないじゃん。

今ならすぐ分かるけど、このときは眠くて頭が働いてなかったから。

不思議そうな顔をする僕に、父は言った。

「妖怪退治。多少は眠気も醒めるだろう。」

僕は頷いた。

自分から力を引き出すことに恐怖はあったが、でも隣には父がいるから。

何かあってもなんとかしてくれるだろう、と軽く考えていた。

また少し歩き、森を抜けて、住宅地に入った。

父の足が止まる。

それに伴って、僕も足を止めた。

目の前には大きな犬がいた。

高さは2メートルくらい。

自分の倍近くはあった。

犬にしては大きすぎるそいつは、明らかに妖怪だ。

だけど力はそんなに強くないし、性格も好戦的ではないようで、僕らを見て、首を傾げていた。

でも妖怪である以上、祓わないといけない。

お前らの住む世界はこっちじゃなくて、境界の向こう側なのだから。

「それじゃ朔羅。よろしく。」

父親の声から、当主の声に変わる。

「はい。」

僕も息子の表情から、弟子の表情へと変えた。

当主が道の脇に避けて、僕と犬が真正面に対峙する。

僕は刀を抜いて、少しずつ力を解放しながらそいつに近づいた。

最初は不思議そうに首を傾げるだけの犬だったが、異様な雰囲気に気付いたのか、僕を威嚇し始めた。

でも腰が引けていて、ビビってるのが丸分かり。

逃げ出さなかっただけ、えらいと思うよ。

基本的に妖怪は逃げない。

だって逃げたら、自分が弱いことを認めることになるから。

それはプライドが許さないんだろう。

まあたまに、そんなのかなぐり捨ててでも、自分の命を守ることを優先する奴もいるけど……。

かなり少数だ。

この犬は多数派に属するらしい。