ふたつのさくら

あれは確か……僕が10歳になった年の冬のことだった。

当主にはならなくても仕事は知っておいたほうがいい、的なことを言われて、夜、外に連れ出された。

そのときには僕も、力をほとんど完璧に制御できていたから、先代としても安心して連れ出せたのだろう。

思えば、それについて行ったのが、全ての原因だったのかもしれない。

冬にしては暖かい日で、僕らは河川敷を歩いていた。

今の僕の見回りコースと同じ。

違うのは隣に先代がいることと、僕の持ってる刀が少し短かったこと。

余談だが、今でこそ平均より大きいくらいの身長だが、当時の僕はかなり小柄だった。

まあほとんど動かず布団にいて、ご飯も大して食べないじゃ身長は伸びないよな。

今になってその生活が戻ってきたけど、中学時代は普通だったから。

ただの中学生として、生活できていたからここまで大きくなれた。

……と、それは置いといて。

腕が短いのに大人と同じサイズの刀を扱うのは難しいからと、特別に作られた短い刀を持って歩いていた。

だけど使わせてはもらえなかった。

理由は単純。

危ないから。

ほぼ完璧に制御できていた、って言っても、「ほぼ」完璧だ。

「万が一」ってことが無いとは限らない。

だから途中途中で出会った妖怪は、全て先代が切り伏せていった。

かっこよかった。

妖怪の攻撃を躱して、太刀を振るう様は美しかった。

あっけなく散る妖怪の粒が、父の強さを象徴するように輝いて見えた。

でも憧れはしなかった。

だって僕は、この家を継ぐことはないんだから。

憧れたって、虚しくなるだけだ。