ふたつのさくら

……椅子に座って泣いているうちに、いつの間にか寝ていたらしく、外はすでに暗くなっていた。

体を起こせば、はらりと毛布が落ちる。

それを拾って、部屋の電気をつけると、机の上の携帯の下に、紙が挟まっているのが見えた。

毛布を布団の上に置いて紙を見る。

『起きたら来なさい』と、お母さまの丁寧な字で書いてあった。

気は進まない。

今は1人でいたい。

でもこの家は、そんなことが許される家じゃない。

紙をくりゃりと丸めてゴミ箱に捨ててから部屋の外に出る。

行くまでもなく、そこにお母さまが立っていた。

来なさいとは……。

「あぁ、ちょうどよかった。入っていいかしら?」

いかにも今来たように装っているが、多分ずっといたんだろう。

無言で頷いて、部屋に戻る。

座ったところで、お母さまが口を開いた。

「……ねぇ咲良。」

いつになく真剣な声だった。

「3時間ほど前、朔羅くんから婚約を解消してくれっていう申し出があったわ。」

「っ……」

朔羅の話。

絶対そうだと思ってたけど、1番聞きたくないことだ。

「咲良さんに怪我をさせてしまったし、泣かせたから、もう隣にいることはできませんって。その怪我は朔羅くんにさせられたの?」

そういえば言ってなかった。

聞かれなかったっていうのもあるけど、それどころじゃなかったから。

「……違います。」

「そう。じゃあさっき泣いてたのは朔羅くんのせい?」

全く声色が変わらなくて、尋問されてる気分だ。

「……はい。」

正直に答えた。

嘘をついたっていいことはない。

それに、下手に嘘をついて話が長引くのは嫌だった。