ふたつのさくら

「……なにを言ってくれてもいいんですよ?」

「……」

やっぱり答えない。

じゃあこっちから話そうか。

「……ねぇ咲良さん。菖蒲は優しいから、きっと僕のことを悪くは言わなかったんでしょう。だからあなたは困っている。迷っている。僕を恨むに恨めないから。」

振り切れない感情ってのは、なかなかに気持ち悪いものだ。

もどかしくて、他のことが手につかなくなるだろう?

咲良さん、今日学校休んだよね?

気持ちの整理がつかないから。

僕が、つけさせてあげるよ。

「知ってますか?僕、あなたを『人間』として見れたことないんです。」

咲良さんが息を呑む音が聞こえた。

かなり盛ってはいるけど、その傾向が強かったのは事実。

「初めて見たときからずっと、あなたが『食べ物』にしか見えないんです。」

そんな自分が、嫌で嫌でたまらなかった。

「あなたと笑ってる裏で、あなたがどれだけ美味しいか、考えていたんですよ。狂ってますね。どうかしてますね。」

今も昔も、狂っているのは変わらない。

今はその狂気を制御できるようになっただけで。

「あとね、人って、妖怪に食べられると、死体が残らないんですよ。」

ちょっと語弊があるけど、そう言ったほうがわかりやすい。

「聞きたいですか?『人間』の食べ方。ちなみに僕は、初めて見たとき失神しました。」

妖怪が妖怪を食べるときは首を落とせばいい。

そこに本体があるって決まってるから。

でも人間は……。

「……いや、言わなくて、いい……」

怯えたように、咲良さんはつぶやいた。

そう、残念。

でもだんだん分かってきたんじゃない?

僕は「普通」じゃない。

あなたに平気でこんなことを言えるほど、どうかしているのだ。

「それと最後に。咲良さん。」

意図的に声から感情を消し、外にいる菖蒲にも聞こえるように言った。