ふたつのさくら

何度かコール音が鳴って、相手が出た。

『朔羅……』

「おはようございます。咲良さん。」

暗い声の咲良さんとは対照的に、僕は明るい声を作って言った。

「いや、もうおはようの時間じゃないですね。」

ちらっと時計を見ると、もう12時を過ぎていた。

「こんにちは。お久しぶりです。どれくらいぶりなんですか?」

咲良さんからの返事はない。

困惑してるのがよく分かる。

死にかけの人間から電話がかかってきて、明るい声で捲し立てられたら誰だってそうなるよ。

「まあいいや。咲良さん、元気ですか?腕、折れてましたよね?無理に動かしちゃダメですよ。」

どれくらい時間が経ってるか覚えてないけど、骨折なんてそう簡単に治るもんじゃない。

だからまだ、ギプスは外れていないはずだ。

「お腹も、ちゃんと労ってください。」

血を吐くほど、強く殴られてたんだ。

全くあの野郎、もう1発くらい殴っとけばよかった。

「……なんて、僕が言えたことじゃないですね。」

怪我の度合いとしては咲良さんのほうが上だ。

これは紛れもない事実。

だけど今にも死にそうなのはどっちか、って聞かれたら、絶対に僕だろう。

でもしょうがない。

死にたいんだもん。

「聞きましたよ。僕のこと、聞いたんでしょう?」

「……うん。」

小さな声が返ってきた。

もっと、あなたの声が聞きたいな。

「……どう思いました?」

咲良さんは答えない。

答えたら僕を傷つけるとでも思っているのかな?

好きなこと言ってくれていいんだよ?

あなたになら、なにを言われてもいい。

なにを言われても仕方ないくらい、大きな、恐ろしいことを隠していたんだから。