ふたつのさくら

僕はこんなに怒ってるのに、菖蒲は怒られてるのに、なぜか笑った。

拍子抜けして、怒りが消える。

そしてひどく安心したように言った。

「よかった……朔羅、まだ怒れるね。まだ、生きてるんだね。本当によかった……。」

顔をのぞく。

慌てて隠されたけど、見えてしまった。

「菖蒲……泣いてる?」

菖蒲の肩に頭を乗せた。

震えていた。

「……泣いてない。」

目をゴシゴシと擦って、こっちに顔を向けてきた。

「ほら、泣いてないだろ?」

菖蒲は泣いてなかった。

目は充血してるけど、涙は流れてなかった。

本人が泣いてないと言うなら、泣いてないんだろう。

菖蒲が僕を抱き寄せる。

「おかえり朔羅。ごめんな、すぐに行けなくて。」

一瞬なんのことかわからなかった。

でもすぐに納得した。

僕が家を抜け出したことだ。

菖蒲はそれに気づけなかったことについて、謝っているのだろう。

でもどれだけ後悔したって、あれはどうしようもないだろ。

「……別にいいよ。死ぬつもりだったし。それに菖蒲だって危ない状況だったんじゃないの?」

「やっぱバレてる?」

菖蒲が僕を離しながら言う。

頷いた。

あんまりちゃんと覚えてないけど、咲良さんを渡したとき、菖蒲の顔色は悪かった。

奏美くんの血色がいいから、余計にそう見えただけかもしれないけど、かなり酷かったと思う。

多分過労で倒れでもしたんだろう。

申し訳なさすぎる。

「……危なくなる前に、休めよ。」

僕のことなんてほっといていいから。

それは口に出さなかった。

出したところで、ほっといてはくれない。

「……気をつけるよ。」

菖蒲はそれだけ言って、黙ってしまった。

僕も特に言葉を発することはなかった。