ふたつのさくら

……次に目を開けると、僕の体勢が変わっていた。

寝返りを打ったのか、誰かが動かしたのか……。

なぜか体が軽くて、簡単に起き上がることができた。

部屋には菖蒲も凍夜も居なくて、ザーザーと、雨の音だけが聞こえていた。

立ち上がろうとする。

さすがにそこまでの力は残っていなかった。

壁に背中を預けるようにして座り、携帯を開く。

前見たときと変わらない、一件の通知。

トーク画面を開いて、既読をつける。

メッセージを送った。

『いきなりどうしたんですか?』

返事はすぐに返ってきた。

日時を確認する。

木曜日の午前9時半前。

授業中じゃない?

『おはよう朔羅!』

質問の答えになってないけど。

ま、いっか。

咲良さんだし。

『おはようございます』

『調子はどう?』

『元気ですよ』

嘘をついた。

この子は、なにも知らないままでいい。

なにも知らないで、なにも背負わないで、僕を忘れてくれればいい。

返信があった。

少し遅かった。

『嘘』

「……はい」

『嘘じゃないですよ』

また嘘をついた。

立てないのに、歩けないのに、元気なわけがないんだ。

『嘘でしょ』

『本当に元気ですよ?』

「……やめてください……」

追求しないでほしい。

なにも聞かないでほしい。

『ねぇ朔羅、ほんとのこと言って?』

さっきからなにを言ってるんだ、この子は。

布団の上に携帯を放る。

なんでそこまでして聞こうとする。

これでいいんだよ。

あなたの中の僕は、強くないと、元気じゃないといけないんですよ。

だって嫌でしょう?

こんな弱い男は。

ずっと僕は必死なんですよ。

あなたに弱い自分を見せないように、知られないように必死で生きてきたんです。

もう最後なんだから。

そのままの僕で、強いままの僕を覚えててください。

そして、忘れてください……。