ふたつのさくら

……だんだんと、焦点があってくる。

動けない。

だけど視線だけを動かして、周囲の様子を見ることはできた。

僕は横向きに寝かされていた。

目の前には多分菖蒲の足。

座った状態で寝てるのかな?

僕には横になって寝ろって言うくせに、自分はそうやって寝るんだ。

一体誰がそうさせてるんだか。

少し離れたところには桶が置いてあった。

あれか、僕が吐いたとき用。

あったほうが楽だもんね。

あとは背中にわずかに感じる暖かさ。

凍夜だろうな。

罪悪感が募る。

もう、いなくなってしまえ。

手の届く位置に、自分の携帯が置いてあるのが見えた。

体は無理だけど、腕だけなら。

気力でなんとか動かして、それを手に取る。

画面をつければ、一件の通知が目に入った。

既読をつけないように、トーク画面を開く。

『ねぇ、逃げない?』

……?

目をぎゅっと閉じて、また開ける。

同じことが書いてあった。

はあ、薬、抜けきってないのかも。

アレはきっと幻覚だ。

現実だとしたら、彼女はある程度、僕のことを知った上でのあの言葉になる。

そうじゃないと『逃げる』なんて発想にならないからね。

話してないから、知ってるわけない。

携帯の画面を消して、また目を閉じた。