ふたつのさくら

天狗が目の前にしゃがんで話し出す。

「そういえば、条件言ってなかったね。」

……言われてみればそうだ。

私はなにも聞かずに、朔羅を助けてもらえるなんていう言葉に頷いた。

妖怪が出す条件だ。

絶対にロクでもない。

現に、私は殴られてるし、朔羅は助けられてる気配はない。

こんなやつの言葉を信じた、私が馬鹿だった。

天狗は楽しそうに言った。

「……死んでね。」

「ひっ……」

怖かった。

「殺意」というのは、きっとこれのことなのだろう。

一生知らずに生きていたかった。

「苦しむ顔が見たいから……そうだね、そうしよう。」

1人で話して、1人で納得して、そいつは私を仰向けにして、その上にまたがった。

体中が痛くて、抵抗する気力も残っていなかった。

私の首に手を添える。

「ねえ知ってる?絞殺って、難しいんだ。ちゃんと締めないと、あとで息を吹き返すかもしれないからね。でも……」

手に力を入れた。

瞬間、息ができなくなって、声も出せなくなった。

「首を折れば、問題なし!」

さらにきつく締め上げられる。

折る気なんだ。

痛い、苦しい……。

え?これ、死ぬの……?

やだ……誰か……助けて……!

朔羅……!

どう考えたって朔羅のほうが重症なのに、私が助けを求めるのは、いつだって朔羅だけだった。

涙がこぼれ落ちて、意識を失った。