ふたつのさくら

朔羅を引き寄せて、座ったまま距離を取る。

「まあまあ、そう怯えなさんな。」

しゃがんで、目線を合わせて、優しい声で言ってくる。

お面で顔は隠れてるけど、笑顔なんだろう。

「俺は見ての通り鴉天狗。嬢ちゃん、条件次第ではそいつ、助けてやってもいいよ?」

条件次第で、朔羅を助ける……?

「朔羅……死なないんですか……?本当に、助けてくれるんですか……?!」

「ああ、本当さ。今ならまだ間に合う、かもしれない。どうする?」

妖怪と取引なんて馬鹿げてる。

もし朔羅が起きていたら、ここに奏美や他の人がいたら、絶対に止めただろう。

でもここには今、私しか起きてる人はいない。

そして私は、妖怪の恐ろしさを、本当には理解していなかった。

「……お願い、します……!朔羅を、助けてください……!」

私が答えた瞬間、天狗の雰囲気が変わる。

「それじゃ、ちゃちゃっとやりますか!」

そう言って、天狗の団扇を大きく振った。

周囲に暴風が吹き荒れる。

なぜか朔羅だけが吹き飛ばされて、私はふわりと浮いて、天狗の前に立たされた。

朔羅が木に叩きつけられる。

「っ、ゴホッ……オ゙エ゙ッ……」

受け身も取れないままぶつかった朔羅は、衝撃からか、胃の内容物を吐き出した。

遠くて見えにくいが、大量の錠剤のように見えた。

「朔羅っ!!」

「おっと、ダメだよ?」

急いで朔羅のもとに行こうとすると、天狗に腕を掴まれる。

「約束は守ってもらわないと。」

そして無理矢理捻りあげられ、腕から嫌な音がした。

「あ゙っ……!!」

まともに声も出せずに、全身の力が抜ける。

倒れそうになったところを、天狗に支えられて、立たされた。

捻られた右腕が痛くて、意識が飛びそうだった。

「うーん、やっぱり人間の体って脆いね。この程度で折れちゃうんだ。」

今度はお腹に拳を入れられる。

胃液を吐き出した。

目の前がチカチカする……。

「……ダメだ。楽しくない。」

そう言ったかと思うと、地面に投げ捨てられる。

「ッ!!」

やられた数としては2発だけ。

だけど、初めて感じたあり得ないほどの痛みに、体が言うことを聞かなかった。