ふたつのさくら

「どこ……ここ……。」

忘れてはならない。

私は方向音痴。

こんなときでもその実力は遺憾無く発揮される。

朔羅の家に向かっていたはずなのに、いつの間にか森の中に入っていた。

走るのをやめて、歩く。

急ぎたいのに、早く朔羅のところに行きたいのに、でこぼことした地面は、それを許してくれなかった。

20分ほど歩いたところで、開けた空間に出る。

その中央、ちょうど木漏れ日が当たっているところに、その人は横になっていた。

「朔羅……?」

返事はない。

「朔羅!」

駆け寄って少し体を起こす。

私でも簡単に持ち上げれそうなくらいに軽かった。

顔面は真っ白で、呼吸もかなり早い。

脈は弱すぎる。

「っ……朔羅!ねえ朔羅!返事してっ!!」

やっぱり返事はない。

固く閉じられた瞼が動くこともなかった。

「ねえお願い!朔羅っ!起きてよっ!!」

「おや?」

「っ?!」

後ろから、知らない人の声が聞こえた。

カサカサと葉っぱを踏み分ける音がして、真後ろで止まる。

「こんなところに人間、それも視える人が来るなんて、珍しいね。」

ゆっくりと後ろを振り向けば、朔羅と背が変わらないくらいの男性が立っていた。

その人は朔羅の顔を覗き込んで、残念そうな顔をした。

「あ〜こいつ、もうすぐ死ぬね。」

「っ!!」

死ぬ……朔羅が、いなくなる……。

「残念。もったいないなぁ。せっかく強いやつに会えると思ったのに。」

その人はまったくそうは思ってなさそうに言った。

「でもいっか。」

いや、「人」じゃない。

そいつの背中からは、真っ黒の翼が2枚、生えていた。

「……上物が手に入った。」

背の高い下駄を履いて、ヤツデの葉っぱを持って、真っ赤なお面をつけたそいつは、天狗だった。