ふたつのさくら

……気づいたら朝になっていて、隣に菖蒲の姿はなかった。

一晩寝たことで、冷静になった。

昨日はどうかしていた。

何があんなに怖かったのか、何にあんなに怯えてたのか分からない。

……いや、分かるな。

自分はもう「人」じゃない。

人に戻れないんだ。

完全に、妖怪と一体化したんだろう。

外身は人のまま。

だけど中身は、無惨に、残酷に、自分勝手に人を喰らう、妖怪。

そんなやつは、誰にも見つからないところで、1人で朽ちていくのが似合ってる。

無理矢理体を起こす。

近くにあった携帯の電源をつけた。

着信履歴がすごいことになってる。

電話をかけた。

出ない。

もう話してくれないのかな?

昨日電話に出なかったこと、怒ってるかな?

しばらく待っていると、向こうから眠そうな声が聞こえてきた。

『さくら〜まだ5時だよ……こんな早くにどうしたの……』

よかった。

今度は相手を確認したみたいだ。

「……咲良さん、さよなら。」

それだけ言って、返事も聞かずに電話を切る。

そして電源も切った。

あとは方法だけ。

この部屋に刃物の類はない。

カッターも、取り上げられた。

長い紐でもあったら首を吊ればいいんだけど、それもない。

道具がなくてもできるってなると……身投げ?

でもなぁ……建物はあるけど高くて3階建てだし、川はあるけど海はないし、山はあるけど崖はないし……。

出来ないことはないだろうけど、せいぜい大怪我をして痛い思いするだけの可能性が高い。

このまま何も食べずに餓死するのも、苦しいだけだよな……。