ふたつのさくら

「……なんで、見捨ててくれないんだよ……!」

結局、僕は生きたいのか死にたいのか、どっちなのか分からなかった。

自分の中で、対極に位置する2つの気持ちの板挟みにあって、どうしようもなくなっていた。

「……朔羅。」

ずっと黙っていた菖蒲が口を開いた。

「今日はもう寝よう。寝て、明日になったら、少しは楽になってるかもしれないから。これは、片付けてくるね。」

菖蒲が、いろんなものが乗ったお盆を持って離れる。

咄嗟に菖蒲の服を掴んだ。

「ん?」

菖蒲が振り向く。

自分でもなんでそうしたのか分からなかった。

だけど、驚くほど簡単に言葉が出てきた。

「……行かないで……ひとりにしないで……!怖くて……もう、全部が怖いんだ……!」

こんな子供みたいなこと言われても、菖蒲が困るだけだ。

だから僕は、今すぐにその手を離して、笑って、「やっぱり大丈夫、なんでもないよ」って、言うべきだった。

でもできなかった。

服を掴む力を強める。

「なにも分かんなくて……!自分のこともわかんなくて……!それが怖くて……!お願い菖蒲!今は……今だけは……隣にいて……」

菖蒲は机の上にお盆を置いて、僕と目線を合わせる。

「……分かった。絶対に戻ってくるよ。だからちょっとだけ手、離せる?」

俯いた。

菖蒲が嘘をつくとは思えない。

だけど、もし、万が一、僕のことを忘れたら。

何かの拍子に僕に愛想を尽かして、戻ってこなかったら。

ありえないって分かってるのに、そんな考えが頭の中をよぎった。

「……無理。」

無意識に、そう答えていた。

菖蒲が頭を撫でてくる。

「じゃあ、一緒に行く?ちょっと遠いけど、歩ける?」

立ち上がり、一歩踏み出したところで力が抜けた。

菖蒲に支えられて、倒れることはなかったけど、とても台所まで行けそうになかった。

歩けないなんて珍しいことじゃないのに、弱ってく自分が、さらに怖くなった。

「っ……いやだ……何もできない……なんで……?こんなの、僕じゃない……!助けて……!もう、死ぬんだ……!」

何も分からない恐怖と、菖蒲がいなくなることの恐怖と、あとは咲良さんを置いて死ぬことの恐怖が混ざり合って、パニックになった。

どれもこれも、ひとつひとつは大きなものじゃない。

それにもし僕が元気だったら、母さんが死んでなかったら、こんなにはなってなかっただろう。

いろんな要因が重なって、恐怖が大きくなって、何も分からなくなって、パニックになって、また怖くなって……。

負のループだった。