ふたつのさくら

……吐き気がおさまるころには、菖蒲が戻ってきていて、背中をさすってくれていた。

「……あやめ、ごめん……食べれない……。体が、受け付けないんだ……。」

エネルギーをとっていないのに、体力ばっかり使ったから、もうフラフラだった。

「そうか……。」

怒るでも同情するでもなく、受け入れてくれた。

袖で口元を拭って、菖蒲に言う。

「……ねえ、もう、いいよ……。」

腕を枕にして、机に突っ伏した。

心残りはたくさんある。

凍夜に教えないといけないこともあるし、気持ち的な問題で望みは薄いけど、先代とももっと普通に接したかった。

なにより、まだ咲良さんに対して中途半端なままだ。

僕のことを何ひとつ話していない。

いつか話すって言いながら、結局何も話さないで居なくなるんだ。

約束も守れないような、クズのままで居なくなるんだ……!

……そっちの方がいいか?

全部話すのなんて、ただの自己満足じゃないのか?

それで嫌われたとして、咲良さんの中には僕のことが強烈に残ってしまうんじゃないか?

それが原因で、これからの人生を楽しめないんじゃないか??

このまま会わないで居なくなったら、学生時代の青臭い恋物語で終わる。

僕のことは過去のことと割り切って、忘れてくれるだろう。

妖怪のことなら、書庫を漁ってるときになんとかなりそうなのを見つけた。

多少無理があっても、渡貫当主に許可さえ取れれば、なんとかなる。

僕は、それさえ出来れば、いいじゃないか……。