ふたつのさくら

菖蒲が振り向くと、それに伴い僕も後ろを向く。

そこには予想通りの人物がいた。

「咲良さん……。」

「お嬢!久しぶり!」

咲良さんは2匹のシェパードのリードを持って、微妙な顔をして立っていた。

そりゃそうなるよ……。

未来の旦那が男にお姫様だっこされてんだもん……。

情けねぇ……。

「菖蒲、降ろして。」

「はい。」

さっきまで渋ってたのが嘘のように、素直に降ろしてくれた。

足に力が入らなくてよろけるが、菖蒲に支えられて倒れることはなかった。

「あの、咲良さんこれは……」

菖蒲に寄りかかったまま弁明しようとする。

それを制するように、咲良さんが若干引いた目をして、口を開いた。

「朔羅、あなた、そういう趣味……?」

「違います!断じて!僕が好きなのは咲良さんだけです!」

咲良さんの中で僕がヤバいやつになっていく。

必死で否定するけど、忘れてはいけない。

ここには傍迷惑な誤解をさせようとする最低な野郎がいるのだ。

「いいんだよ、朔羅。お嬢もきっと受け入れてくれるさ。」

「菖蒲はちょっと黙ってて!」

てか、菖蒲はそれでいいのかよ!

いやよかったな?!菖蒲はそういうやつだ!

「朔羅……」

咲良さんはポンと僕の肩に手を置いた。

そして、悲しいのを隠すような、複雑な笑顔を作って言った。

「どんな朔羅も、私は好きだよ。」

「だから違いますってー!!」

僕の叫びが、夕方の町にこだました。