ふたつのさくら

渡貫当主は婚約を破棄することを許してくれない。

先代も同じだろう。

でもそれは、僕が言ってるだけだからだ。

ここで咲良さんが同じように言い出したら?

「朔羅なんて嫌い」って言ったら、どうだろうか。

言質を取れれば、どうとでもできる。

この際自分が傷つくのはどうでもいい。

咲良さんに嫌われたら、冗談でもそんなこと言われたら、僕はどうかなってしまうだろう。

だけど、この手で咲良さんを傷つけるくらいなら、そのほうがいい。

僕1人が耐えれば、それで済む話だ。

どうすれば嫌われるかなんて分かりきってる。

僕の秘密を、話してしまえばいいんだ。

僕があなたの敵で、ずっとあなたのことを殺したいと、食べたいと思っていたと言えば、嫌われる。

問題はどうやって話すかだよなー。

電話やメッセージじゃダメだ。

絶対信じてもらえない。

だけど会ったら間違いなく我慢できなくなる。

傷つけたらダメなんだ。

咲良さんの体にも、心にも、大きな傷跡はつけないで、僕だけが嫌われないと。

できるだけ弱ってるところは見せたくない。

明るく、平然と、言ってのけるくらいの余裕があるときに話をしよう。

これは男としての意地みたいなものだ。

好きな子の前では、カッコつけたい生き物なんだよ、男ってのは。

「……どうなるんだか……」

話すのが先か、僕の限界が来るのが先か。

どっちにしても、僕が行動を起こしたときに、終わりへのカウントダウンのスタートだ。

ベンチから立ち上がる。

出てきたときと同じように、静かに家に戻った。