ふたつのさくら

……1時間ほど経っただろうか、襖が開かれ、菖蒲が入ってきた。

「朔羅、そろそろ時間。」

「分かった。」

軽く返事をして、椅子から立ち上がる。

急に立ち上がったからか、ふらついて倒れそうになる。

「っ……」

机に手をついて、何とか倒れないで済んだ。

「……大丈夫か?」

菖蒲が僕の体を支えながら聞いてくる。

「大丈夫。」

「……そうか。」

菖蒲は心配そうな顔をしながら言った。

そしてゆっくりと手を離す。

ふらつくことなく、1人で立つことができた。

「行こうか。あんまり待たせるのも悪い。」

2人で、通夜振る舞いの部屋である、大広間に向かった。

襖を開ければ、中には人がたくさんいて、上座から順に、徒野、渡貫、徒野の分家と並んでいた。

隣……は、きついかもな……。

でもしょうがないか。

僕は、渡貫からなるべく離れるように、席についた。

爽やかな柑橘系の匂いが鼻につく。

苦しい。

ここからは気合いだ。

隣には菖蒲がいる。

正面に先代、その隣に凍夜が座っていた。

その場の人が全員座ったのを確認して、僕は立ち上がる。

「本日はお忙しい中、通夜に足をお運びいただき、誠にありがとうございました。皆様にお集まりいただき、母も喜んでいることと存じます。ささやかですが、食事を用意いたしました。お時間の許す限り、食事をしながら故人の思い出話などお聞かせいただければ幸いです。」

ここまでを一気に、なるべく渡貫の、咲良さんの方を見ないで言った。

匂いが強くなる。

なんで?動いてないのに。

我慢だ、まだ大丈夫。

一度深呼吸をして、続けた。

「また、誠に勝手ながら、私は体調がすぐれないため、ここで退席させていただきます。以降のことはこの菖蒲にお申し付けください。」

菖蒲が座ったまま礼をする。

献杯をして、会食が無事に始まったのを確認して、菖蒲に声をかけた。

「ごめん、限界。」

「ああ。すぐには行けない。悪いな。」

菖蒲の返事を聞いてすぐに、僕は部屋を静かに飛び出した。

早足で自分の部屋に戻り、襖を閉める。

瞬間、僕の視界はブラックアウトした。