ふたつのさくら

「……あやめ……刀、どこ……?」

「はぁ?」

こんな状況のお前に、渡せるわけないだろ?

朔羅は俺が怒ったことが分かったのか、慌てたように言ってきた。

「ちが……使わ、ない……けど……怖い、から……」

手元にあったほうが安心できる、と。

でもなぁ。

「そうは言っても、お前使うだろ。」

「……」

朔羅は答えなかった。

ほら、使う気じゃん。

「……あのなぁ、お前最近、切りすぎ。この2日でどこ切ったよ。手首ぶっ刺して、手のひら裂いて、首の皮も切って。覚えてないかもしれないけどな、そのリストバンドの下、他に2、3本、線が入ってるぞ。」

朔羅は驚いたような顔をして、左手を持ち上げた。

黒いリストバンドの下からは、白い包帯が少しはみ出していた。

朔羅の体を支えながらそれを外し、包帯も解いてやった。

手首には、大きな傷跡がひとつと、赤い線が3本、横向きに入っていた。

「っ……」

朔羅の瞳が揺れる。

元通りに包帯を巻いて、リストバンドも戻した。

「また、ああなるのは嫌だろう?」

朔羅が小さいとき、自傷に依存したときのことだ。

朔羅は黙って頷いた。

「だから、だめ。渡さない。」

「……」

俯いた。

俺は明るく言った。

「……さ、うどん食べよ。伸びちゃうから。な?」

朔羅に箸を握らせる。

さっきよりは少しマシになったようで、しっかりと握ってくれた。

「自分で食べれる?」

「……ん。」

返事をして、ゆっくりと器に箸を伸ばした。

本当にゆっくりで、全部食べ終わるのに2時間はかかる、というか、全部は食べれないだろう。

まぁ、食べてるからいいか。

「あとでまた来るから。食べれる分だけでいいから、食べな。」

それだけ言って、部屋を出た。