ふたつのさくら

おとといの夜から、いや、正確には2、3年前、凍夜が朔羅の状況を理解できるようになった頃からだな。

ときどき、朔羅はこうして自分を責めるようなことを言う。

寝言だから無意識なんだろうけど、それでも出てくるってことは思ってるってことだ。

それがおとといから明らかに多くなっている。

母親が死んで、凍夜が自分に甘えてきて、後ろめたさが余計に強くなったんだろう。

今までは凍夜の前で言うことはなかったけど……。

そうか、そりゃ、まぁ、いつまでも言わないなんてことは無いよな。

朔羅の頭を撫でる。

「……朔羅、お前のせいじゃないから。そんなこと、言うんじゃねぇよ。」

「ぅ、ぁぁ……」

朔羅の目が、薄く開いた。

俺のほうを向いて、次に凍夜を見て、最後に固く握られた自分の手を見た。

朔羅はハッとしたように手を離し、引っ込めた。

「っ……ごめん、痛く、ない……?」

弱々しい声で、凍夜に聞いた。

「……うん。」

凍夜は動揺した様子で答える。

それを聞いて、朔羅は安心したように、また目を閉じた。

「……にい、さん?さっきの、なに?」

再び目を開ける。

それだけでも辛そうだ。

「さっきの……?なんの、こと……?」

「あの、僕がいたか……」

「凍夜。」

俺は首を振った。

多分今は何も言わないほうがいい。

ただでさえ今の朔羅は限界なのに、これ以上負担をかけるのはよくない。

そう思って、俺は凍夜を止めた。

「朔羅、今日は休んでな。あと明日も。お前のやることは全部うちが代わっておくから。」

紅葉さまはいいとしても、他のじじい共はうるさいだろうな。

実の母親の通夜だ、葬式だってのに、当主が出てこないとは何事だ!

ってね。

朔羅にも、そのくらいのことは分かるのか、頷くことも、首を振ることもしなかった。

代わりに手をついて起きあがろうとした。

「くっ……」

「おいおい、寝とけって。」

慌てて止めるが、朔羅はそれには首を振った。

仕方なく、起き上がるのを手伝う。

朔羅は壁に背中を預けるようにして座り、ゆっくりと口を開いた。

「……菖蒲、それは、だめ……午後までには、なんとか、する……から……。」

「でもよ……」

抗議しようとすると、睨まれた。

「無理、だよ……老害たちが……騒ぐから……。」

おお、口が悪い。

じじい共を老害呼ばわりとは。