ふたつのさくら

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誰かに持ち上げられる感覚がして、目を覚ました。

「ぁ……菖蒲……?」

目の前に菖蒲の顔があった。

どうやら横抱きに持ち上げられているようだ。

「起こしたか?」

疲れたような顔をして、菖蒲が答えた。

僕は首を横に振る。

そうか、と言って、下ろしてくれた。

布団の上だ。

手をついて起き上がり、座った。

凍夜はもう僕の手を離していて、隣の布団で気持ちよさそうに眠っていた。

「朔羅、寝るなら布団で寝ろよ。座ってちゃ疲れるだろ?」

「……菖蒲、昨日、寝た?」

菖蒲の言葉を無視して、問いかけた。

菖蒲は気まずそうに目を逸らして、首を横に振る。

嘘をつく余裕もないくらい疲れてるのに、なんで僕のことを気にしてる余裕はあるわけ?

「寝な。ここ、使っていいから。」

「いや、いいよ。」

布団から出ながら言うと、菖蒲はそれを手で制した。

「……別のとこで寝るから。」

菖蒲が言う。

だけど僕は、直感的にそれが嘘だと思った。

携帯を確認する。

今は午後10時過ぎ。

多少寝過ぎても、明日の通夜には全く支障が出ないだろう。

「菖蒲。大人しくここで寝るか、殴って無理矢理気絶させられるか。どっちがいい?」

「……選択肢ないじゃん。」

え?あるじゃん。

菖蒲はため息をつきながら答えた。

「はぁ……分かったよ。寝るから。殴るのは勘弁して。」

よろしい。

僕は立ち上がり布団から出る。

入れ替わりで、菖蒲が横になった。

相当疲れていたのか、菖蒲は横になるとすぐに眠ってしまった。

「もう気絶じゃん……。」

それも仕方のないことではある。

僕の母は、菖蒲にとっては叔母だ。

全くの無関係じゃない。

むしろ、割と近い関係のはずだ。

そんな人がいきなりいなくなった上に、僕と凍夜は何もできない。

先代も力仕事なんかは無理だ。

だから今まで母がやっていたことを全てやり、プラスで葬式の準備なんかもしている。

奏美くんがいたとはいえ、体にも心にも、相当な負担がかかっていたんだろう。