ふたつのさくら

奏美くんは、これで用は済んだとばかりに立ち上がり、部屋を出て行こうとする。

「あ、奏美くん。」

僕は彼を引き止めた。

奏美くんは振り向いて、不思議そうな顔をした。

「今日はなんで来たの?菖蒲?」

彼が徒野の人間であることはもちろん僕も知っている。

だけど、咲良さんに付いているから、言い方は悪いけど、今の所有は渡貫だ。

もし菖蒲が無理言ったんだったら、僕から渡貫に説明しないといけないかもしれない。

奏美くんは軽い雰囲気で答えた。

「そうです。菖蒲に脅さ……いや、お願いされて、来ました。」

今脅されてって言いかけたよね?!

苦笑いするしかなかった。

「……よく言っておくよ……。」

奏美くんは付け加える。

「まぁあとは、渡貫当主様にも言われたので。あなたが気にすることは何もないかと。」

その辺はうまい具合に手が回っていた。

「分かった。ありがとう。」

奏美くんが出て行って、部屋にはまた2人だけになった。

渡された資料をもう一度ちゃんと見る。

通夜は明日の夜、葬儀は明後日の昼からだ。

僕がやらないといけないのは、通夜と告別式での挨拶だけ。

先代がいるとはいえ、当主が出ないわけにはいかないからね。

他のことは全部菖蒲と先代に任せておけばいいだろう。

凍夜は……出したほうがいいか。

明日になったら、少しは落ち着いていると思うし。

いつの間にか、僕も眠っていた。