ふたつのさくら

なにも考えず、何もせずに、ただ座っていると、襖の向こうから声をかけられた。

「朔羅さま、お時間よろしいでしょうか。」

声からして、奏美くんだ。

なんで?

「……どうぞ。」

返事をするとゆっくりと襖が開かれ、奏美くんが中に入ってきた。

「あ、お休み中でしたか。」

凍夜を見て言ったのだろう、小声になった。

「そうだね。でも凍夜だけだから。」

同じように小声で答える。

奏美くんは軽く返事をして、僕の目の前に座った。

「朔羅さま、通夜と葬儀の段取りが決まりました。こちらのプリントを確認しておいてください。」

「分かった。」

ホッチキスで留められた、数枚の紙の束を受け取った。

ぺらぺらと流し読みで確認する。

僕が出て行くのは最低限にしてくれたみたいだ。

「それと……」

僕が一通り見終わったのを確認して、奏美くんが口を開いた。

「お嬢様が、とても心配しています。」

やっぱり……?

心配しなくていいって言っても、そんなの無理?

「今朝、あなたとのトーク画面をぼーっと見つめてました。既読くらいはつけてください。」

「はい……。」

携帯を取りに行くために、凍夜を布団に寝かす。

そのままじゃちょっと届かないから、手を解こうとした。

しかし凍夜は、寝てるはずなのに必死で抵抗してくる。

ぎゅーっと、両手で強く握り、ついには寝たまま泣き出してしまった。

「いやだぁ……どこも、行かないでよぉ……」

……無理だ。

「……ごめん奏美くん。机の上にあるから、とってもらってもいい?」

「……はぁ、最初から頼んでくださいよ。」

ごめん。

奏美くんから受け取った携帯を開き、咲良さんとのトーク画面を開く。

いろいろ言ってくれてるが……。

「食べたいものかぁ……。」

食欲、ないなぁ……。

そういえば、昨日の昼から何も食べてない。

それなのに、1ミリもお腹が空いていなかった。

「……ねぇ奏美くん。これ、いらないって言ったら……。」

「僕がぶん殴ります。」

ノータイムで返事をすると同時に、拳を振りかぶった。

うぅ……当たりが強い。

「ちょ、早いって。」

こんなんで殴られたくない。

抗議すると、すぐに手をおろしてくれた。

食べたいもの……よりは、食べやすいもの、のほうがいいな。

『あんまり食欲ないので、うどんでお願いします』

そう送って、いまだに殴りかかってきそうな奏美くんにも見せて、携帯を閉じた。