ふたつのさくら

……どれだけそうしていただろうか。

凍夜がもぞもぞと動き出した。

起きたかな?

凍夜が起き上がった。

起き上がったのはいいんだけど……手を離してくれない。

そしてそのまま立ち上がって、部屋の外へ、ゆっくりと歩き出した。

当然僕もついて行く。

無意識なの?寝ぼけてるの?それともわざと?

何も言わない僕も悪いと思うけど、凍夜も悪いと思うよ。

凍夜が向かったのは台所だった。

朝、よく母さんがいた場所。

「いない……」

うん、いないね。

凍夜はまた僕を引っ張って歩き出した。

次に向かったのは脱衣所だ。

洗濯機が置いてある。

今は誰か……1人しかいないんだけど……誰かが回したのか、動いている。

表示にはあと2分と出ていた。

凍夜は洗濯機の前に座った。

隣に座る。

何かを言うわけでもなく、2人で座っていた。

2分後、洗濯機から音がなる。

ピーピー、と。

毎朝、学校に行く前に聞いていた音だ。

使う人が違っても、家電は何も変わらず動く。

しばらくその場で待っていれば、菖蒲がやってきた。

「うおっ?!お前ら、何してんの?」

洗濯機の前で座り込んでいる僕らを見て、菖蒲は驚いたように声を上げた。

「……何してるんだろうね。」

僕は答えたが、凍夜は菖蒲を見ると、悲しそうな顔をしてまた立ち上がった。

僕もついて行く。

今度は縁側。

居間、庭、客間、稽古場。

そして、母さんの部屋。

いるはずのない母を探すように家の中を全部見て回って、最終的にそこに行き着いた。

整理整頓されている、というよりは、ものが少ない。

小さなテーブルの横に、2枚の座布団が重ねて置いてあるだけの、質素な部屋だった。

服とかも、着れればいいとか言って、たくさんは持っていなかったな。

菖蒲もここはいじっていないと思うから、昨日、母さんが出て行ったときのままだ。

「……兄さん。」

凍夜が口を開いた。

「母さん、いない……いなく、なっちゃったよぉ……」

言いながら、また抱きついてくる。

実感、しちゃったんだね。

「……そうだね。」

頭を撫でる。

こんな小さい子には、辛いよね。

「にぃにぃ……!死んじゃやだ……!おれと、一緒にいるんだぁ……」

余裕がないんだね。

「……凍夜、部屋、戻ろっか。」

ここにいても辛いだけだろう。

楽しかった出来事を思い出して、悲しくなるだけだろう。