ふたつのさくら

「……やめとくよ。」

理由は単純。

危ないから。

僕らが、じゃない。

相手が。

多分目の前に来た瞬間、僕らは冷静じゃいられなくなる。

話を聞く前に、問答無用で殺しにかかるだろう。

大事な人が殺されて、目の前にその犯人がいて、呑気におしゃべりなんてできるか?

無理だろ。

どれだけ頑張って抑えたって、煮えたぎる殺意を消すことはできない。

そして僕らは、それを我慢できるほど、大人じゃない。

菖蒲は表情を変えることなく返事をした。

「分かった。じゃあ明日、うちと紅葉さまとで行ってくるよ。」

黙って頷いた。

「それと、お葬式とかそういうの、全部やっとくから。」

それには、頷けない。

「いいよ。そこまでやらせるわけにはいかない。」

菖蒲は化野で、母さんは徒野だから。

それは僕か、最低でも先代がやらなきゃいけないことだ。

1番近い分家だからって、そんなことまで任せて許されるなんて思っていない。

少しなら気力で耐えてみせる。

要はあの匂いがダメなんだから、鼻栓でもしとけばいいでしょ。

菖蒲は少し考えて、覚悟を決めたように言ってきた。

「……朔羅、お前には無理だよ。」

「……それは、どういう意味?」

目を逸らさないで聞く。

「今日の様子見てればわかる。もう、純粋な人とは会えないんだろ?」

「……」

目を逸らした。

「何が原因かなんて全く分からないけど、でも明らかに異常だったよ。あそこまでして警官たちを遠ざけるなんて。」

菖蒲は話を続ける。

「最初は母親が死んだからだと思った。精神が不安定になって、他にどうしようもなくなったのかと思った。でも違うだろ。」

菖蒲には何も言っていないはずなのに、菖蒲は決定的な言葉を口にした。

「……匂い、するのか?」

「?!」