ふたつのさくら

徒野邸から走って10分ちょっと。

古びた団地の一室が岡崎先生の家だった。

姪御様の部屋に案内される。

そこには苦しそうに息をして、胸の辺りを握っている少女がいた。

僕も外から見るとこんな感じなのかな?

その上には、偉そうにその場に鎮座する狛犬のような妖怪の姿があった。

こいつがこの少女を苦しめている元凶だ。

岡崎先生には視えていないだろうが、狛犬の尾が、少女の首に巻き付くようにくっついていた。

菖蒲も近くに倒れている。

菖蒲はもともと力が強い方じゃない。

多分狛犬の動きを止めようとして、気力を使い果たしたのだろう。

狛犬から目を離さないで先生に言う。

「岡崎さん、そこの人を連れて外に行っていてください。危ないので。いいと言うまで、絶対に入らないでください。」

「え?でも……」

先生には視えていないから、分からないのだろう。

だけど、僕には視える。

すぐに離さないと、完全に取り込まれてしまう。

「早く!」

「わ、わかった。」

鋭く言うと、先生は慌てて菖蒲を抱き上げ、部屋の外に出た。

それを確認してから僕は一度、目を閉じ、再び開けた。

黒かった僕の瞳は、紅くなっているだろう。

体の中で何かが荒れているのを感じる。

それを抑え込んで、自分のものにする。

大丈夫、まだ僕はここにいる。

太刀を抜いて、狛犬に向ける。

「今すぐ、その子から離れろ。」

悠長にしている時間はないけど、自分から離れてもらったほうが、魂への影響は少ない。

だから最初は警告。

でも、この程度で離れるくらいなら最初から取り込もうとはしない。

狛犬は威嚇するように低い唸り声を上げた。

「2度目だ。その魂を置いて、この場からとっとと去れ。」

なおも威嚇を続ける。

全く引く気がない。

それほどまでにこの娘と波長があったのか。

狛犬は僕に威嚇しながら、尻尾を動かして、少女の首を絞め始めた。

死なば諸共ってか……。

少女から呻き声が漏れる。

そう長くは持たないだろう。

「……はぁ、仕方ないか。」

僕は狛犬を睨みつけた。

「消えろ、雑魚。」