ふたつのさくら

……目を開けると見慣れた天井が目に入った。

どうやら徒野の家に帰ってきたようだ。

顔だけ動かして周りを確認する。

誰もいない。

起きあがろうと床に手をつく。

「った……」

そういえば切ったんだっけ。

手じゃなくて、肘を床について起き上がった。

まだ貧血気味なのか、めまいがした。

両手を見る。

右手は手のひらに包帯、左手は手首に黒いリストバンドがつけられていた。

リストバンドをめくると、包帯が巻かれているのが見えた。

部屋の扉が開かれる。

入ってきたのは凍夜だった。

もうそんな時間か。

凍夜は僕を見ると、嬉しそうに寄ってきた。

「兄さん、おはよう!」

その様子で、母さんのことはまだ知らないんだと分かった。

どうしようか。

今伝えようか、後で話そうか……。

凍夜は僕が何も言わないのを不思議に思ったのか、心配そうに顔を覗き込んできた。

「兄さん?調子悪い?」

「……いや大丈夫だよ。」

そう答えると、凍夜は安心したように笑顔になった。

心配かけてどうする。

凍夜のこれからのほうがよっぽど大変だろ。

そう、自分を叱咤して、凍夜に向き直った。

「……凍夜。」

「なに?」

先に伸ばしてもいいことなんてない。

今、話すんだ。

「今日さ、帰ってきたとき母さんいなかったよね?」

「うん。買い物でも行ってるんでしょ?」

凍夜は何を当たり前のことを、とでも言うように、はっきりと答えた。

普通に考えたら絶対そうだ。

でも、普通じゃないんだ。

当たり前なんて、簡単に崩れ去るんだ。

凍夜、恨むなら僕を恨め。

お前にこんな事実を伝える、残酷な兄を恨んでくれ。

「……ちょっとおいで。」

不思議そうな顔をしながらも、素直にやってくる凍夜を抱きしめた。

こんなの、顔見て言えるわけがない。

「落ち着いて聞いてね。母さんね、もう、帰ってこないんだ。」

「…………え?どういうこと?」

困惑しているようだった。

抱く力を強める。

「多分買い物に行ってたと思うんだよ。そのときに、交通事故に遭って……死んじゃった。」