ふたつのさくら

「無理、だ……」

一歩、後ろに下がる。

「朔羅、どうした?顔、真っ青だけど。」

菖蒲の声は耳に入っていなかった。

苦しくなる。

呼吸してるはずなのに、できてる気がしない。

だめだ……抑えられない……。

ポケットから短刀を取り出そうとする。

でも菖蒲に手を掴まれて、止められた。

「朔羅、だめ。」

「っ!離して!」

なんとか抵抗するけど、菖蒲の手はびくともしなかった。

先代はその様子を黙って見ていた。

「どうかしましたか?」

突然、後ろから声をかけられる。

気づけば、僕らの声に反応したのだろうか、周りに大勢の人が集まっていた。

だんだんと呼吸が荒くなる。

息が吸えない。

「あの、大丈夫ですか?」

別の人が声をかけてくる。

来るな……。

ポケットの中の手を動かして、鞘から刀を抜いた。

「落ち着け……」

刃を握る。

手が切れて、血が流れ出る感覚がする。

息は少し楽になった。

でもその分、視界は白くなっていく。

菖蒲が、ポケットの色が変わってきたことに気づいたのか、焦ったように口を開いた。

「おい朔羅!お前何してんだよ!?」

そして手を引き抜かれた。

真っ赤になった手と短刀が、現れる。

「っ!」

周囲がどよめきに包まれ、近づこうとする人が出てきた。

やめろよ。

「……それ以上、近づくな。」

相手が警官だとか気にしてられるか。

「離れろ……」

もう、とっくに限界なんて超えてんだよ。

「じゃないと……」

左手を無理矢理動かして、短刀の柄を握る。

菖蒲が止めるよりも早く、右手を握ったまま、それを引き抜いた。

さらに深く傷がついて、あたりに血飛沫が舞う。

そしてそれを自分の首に当てて、周囲を睨みつけた。

「僕……死ぬよ?」

「?!」