ふたつのさくら

またお互いに黙ったまま、ときどき菖蒲が傷を確認する音だけが響く。

10分くらいたっただろうか、時計見てないからわからないけど。

部屋のドアがノックされた。

「はい。」

菖蒲が返事をする。

ガチャ、という音だけが聞こえて、扉は開かなかった。

「あ、鍵閉めてんだった。今開けます。朔羅、自分で押さえて。」

菖蒲の手と入れ替えで、自分で押さえる。

立ったら倒れそうだから座ったままやってるけど、力が入らなかった。

「どうぞ。」

すぐに鍵を開けた菖蒲が戻ってきて、手首を押さえる。

左手の感覚はもうなかった。

ドアを開けて入ってきたのは、さっき僕たちを連れて行った警察官と、先代だった。

……やっぱり、匂う。

暴れ出しそうな力が強くなり、少し、体がこわばった。

菖蒲は軽く会釈をして、先代に挨拶をする。

「お久しぶりです。紅葉さま。このような体制でいること、お許しください。」

先代は軽く頷いて、向かいの椅子に座った。

警察官は中の様子に動揺しながらも、口を開いた。

「え、と……とりあえず、大丈夫ですか?」

僕と菖蒲を見て言ってくる。

「大丈夫ですよ、僕は。それより、母の話を聞かせてください。どんな事故だったんですか?」

母親が死んだのに、冷たいと思われるかもしれない。

勝手に思っとけ。

確かに動揺した。

母親が突然いなくなって、平気なわけがない。

でも、僕にはそれ以上に動揺する出来事があったから、1周回ってそのことに関しては冷静になっただけ。