ふたつのさくら

「……朔羅、今日はなんでこうなったの?」

目を合わせずに聞いてくる。

「……死体、匂いがした。」

初めて嗅いだ、柑橘系の匂い。

おいしそうな、匂い。

「嗅いだ瞬間、飲み込まれそうになって、咄嗟に……。」

「そう……」

それだけ言って、菖蒲は黙った。

妖怪がまず人を殺すのは、その方が美味しくなるからだ。

今日、ようやくそれが分かった。

気づいたら、嫌でも理解できた。

あの匂いは、生きてる人間からも出ているのだ。

ただその強さが、感知できるかできないかくらいの、弱いものなだけで。

咲良さんが美味しそうに見えるのは、その匂いが他の人より強いからなんだろう。

て考えると、あれは霊力の匂い?

寿命で死ぬと霊力がなくなってるから、匂いはしない。

だから老人ホームや、高齢者が多い地域に妖怪が群がることはない。

だけど殺せば?

まだ寿命が、霊力が残ってる人を殺せば、何かに抑えられていた霊力が解放される。

それにより、匂いが出て、もっとおいしそうに、いやおいしくなるんだ。

本能的に、妖怪はそれが分かっていたのだ。