ふたつのさくら

その部屋の扉が開かれた瞬間、柑橘系の匂いが鼻をくすぐる。

同時に暴れ出す何かを感じ、急いでポケットから短刀を取り出して、手首に突き刺した。

「朔羅!」

「ぐっ……」

鋭い痛みが走り、消えかけていた意識が戻ってくる。

匂いは消えない。

僕は扉を閉め、その場に座り込んだ。

多少は薄くなったけど、まだ残っている。

先代はすでに僕から離れていた。

一連の流れを呆然と見ていた警察の人は、慌てた様子で僕に近づいてくる。

「君!大丈夫か?!」

「……近づかない方が、良いですよ。」

カラン、と何かが転がる音がしたかと思うと、その人の動きが止まった。

先代が止めたのだ。

僕はそっちを見ないで答えた。

「……大丈夫、です……。」

短刀は手首に刺したまま、先代に声をかける。

「……先代、僕、さっきの部屋に戻ります……」

「……あぁ。」

立ち上がり、壁に手をつきながら最初に案内された会議室に戻る。

途中、何人かの人に声をかけられたが、誰もついてこなかった。

少し後ろをついてきていた先代が、全員引き止めてくれたからだ。

あの人ならうまくやるだろう。

部屋に入り、扉と鍵を閉めたところで、リュックを開く。

短刀を動かさないように、ゆっくり、慎重に。

怪我をしていないほうの手でカバンを漁り、大きめのタオルを2枚、取り出した。

ポケットから携帯を出し、電源を入れる。

すぐにかかってた菖蒲からの電話に出ながら、椅子の上にタオルを1枚敷いた。

『ふざけんな!勝手に電話切ってんじゃねえ!』

いきなり怒声。

携帯をスピーカーにしてから、タオルの上に短刀が刺さったままの手首を置く。

「……ごめん。」

短刀を引き抜いた。

「っ!!」

すぐにもう1枚のタオルを乗せて、膝で押さえる。

自分でやったことではあるけども、痛い。