ふたつのさくら

僕は1回、深呼吸をしてから答えた。

「……僕、です。」

「は?」

先生はポカンとして、僕を見つめた。

「僕が、妖怪の魂を持ちながら人間の体で生活をしている、人間です。」

知りたいなら教えてあげよう。

それがどれほどのものか。

「本当に辛いですよ。自分の中で他の力が蠢いていて、それを無理矢理鎮めようとする。死んだほうがマシなくらいです。血を吐くこともあるし、頭痛で動けないなんて、よくあることです。あと1番辛いのは自分が変わっていくのが分かることですね。『徒野朔羅』という存在が消えていくのがよく分かります。」

先生は怯えた表情をしていた。

「まぁ、あくまでひどい時は、の話です。楽な時はすごい楽だし、ダメな時は本当にそうなります。中学の時に何度か理由も言わずに休んだことありましたよね?その時はやばい時です。」

知りたがったのは先生だ。

「でも、自分の中に妖怪を『飼う』とはそういうことです。いつ暴れ出すかわからない力に怯えながら、文字通り死にそうになりながら自我を保って生活する、ということです。」

「なんとも、なさそうに、見えるけど……。」

……それならよかった。

実はずっと感じている鈍い頭痛も、なかったことになっているんだ。

「なんせ僕は生まれた時からそうだったので。よかったです、普通に見えてて。」

先生の顔が絶望に染まる。

気づいただろう。

これは「異常」なことなのだ。

「生まれつきそうだった僕でも、死にたくなるほど辛いんです。それに、僕は『徒野』という少し特別な生まれでもあります。そうじゃない人間が妖怪の力を内包して生活するのは、あまりにも危険すぎる。」

そう言ったところで、電話がかかってきた。

「失礼。」

部屋を出て電話に出る。

相手は先生の家に向かわせた菖蒲からだ。

『朔羅、もうこの子持たない。8割くらいくっついてるよ。』

「……わかった。もう少し耐えれる?」

『多少遅らせるくらいしかできないよ、うちには。』

「それでいい。あとは僕がなんとかするから。」

『はいよ。』

電話を切って部屋に戻る。

8割も取り込まれているなら剥がすのは至難の業。

妖怪と一緒に魂まで持っていかれかねないからだ。

でも望むならやってやろうじゃないか。